先日歯科医院へ10年ぶりに行ってきました。
なんと先生は左手に指輪をしていました。
10年ぶりの歯医者の先生との再会

久しぶりの再会が明かした変化
フランスでは歯科医の専門が非常に分業されています。 歯ぐき治療にも専門医がおり、今回前の治療でお世話になった先生のところへ行ってきました。
そのドクター・マルタンは気さくな先生で、当時も色々個人的なことを話していて、結婚はする気はあるが、お金目当てにされるのは避けたいと言っていたのを覚えていました。
ドクター・マルタンは、以前と変わらず笑顔で迎えてくれ、白衣に身を包み、丁寧に診察器具を準備する姿は10年前と変わっていませんでした。
しかし、一つだけ明らかに違うものがあった。左手の薬指に光る、シンプルな金の指輪。
10年前の彼を思い出してみると、全く違う人生を送っていました。
当時のドクター・マルタンは、気ままで自由な独身生活を謳歌していたこと。
経済的に安定した歯科医として成功を収め、頻繁に旅行へいき、イタリアへ白トリュフを食べに行くような生活です。
「トリュフの香りがすきで、レストランに行くとトリュフの香りがする」と言われるほどのグルメで、美食への情熱は彼の人生の大きな楽しみの一つでした。
そんなライフスタイルを送っていた彼が、今は複雑な家族問題を抱え、責任を感じているということです。
この10年間で、彼の恋愛状況は劇的に変化が。
「ご結婚されたんですね、おめでとうございます」
何気なく口にした私の言葉に、彼の表情が一瞬曇った。そして、予想もしなかった答えが返ってきた。
「実は、結婚はしていないんです。でも、子供がいるんです」
複雑な家族関係の背景
ニースでの夏の恋
次の治療の見積もりを書きながら、ドクター・マルタンは重い口を開いて話し始めました。
彼がその女性と出会ったのは8年前の夏、南仏ニースでのバカンス中。
当時の彼は、自由で気ままな独身生活を満喫しており、美食とリゾートを求めてヨーロッパ各地を旅することが当たり前。
その夏も、いつものようにバカンスを楽しむためにコート・ダジュールを訪れていたのです。
ある女性が、ロシアから友人たちと旅行に来ており、コート・ダジュールの青い海と眩しい太陽の下で、二人は運命的な出会いを。
流暢なフランス語と魅力的な笑顔で彼の心を捉えた彼女。
当時のドクター・マルタンにとって、それは数多くの夏の恋の一つに過ぎないはずだったのですが。
しかし、短いバカンス期間中に深い関係となった二人の運命は、彼女がロシアに戻った数ヶ月後に大きく変わることになったのです。
妊娠の知らせが届いたと。
それまで、気軽に海外旅行を楽しんでいた彼の人生は、その瞬間から一変。
ドクター・マルタンは驚きながらも、責任を感じてモスクワに飛び、二人の将来について話し合った。しかし、一時的な夏の情熱から始まった関係は、現実の壁に直面することになったのです。
生まれた子供との断絶
翌年、息子さんが生まれ、しかし、時間が経つにつれて、その女性の態度は変化していき、彼女の真の動機も次第に明らかになってきたのでした。
最初は定期的にロシアを訪れ、息子との時間を過ごすことができていた。しかし、徐々に息子を父親に会わせることを拒むようになったと。
「彼女にとって私は、安定した収入源だったんです」ドクター・マルタンは辛そうに言っていました。
彼女は息子を人質にするように、金銭的な要求を続けていると。
国際情勢の影響
金融制裁による送金困難
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻とそれに続く国際制裁により、フランスからロシアへの送金が極めて困難になり、それまで毎月定期的に送っていた養育費の送金が、事実上不可能に。
「SWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの主要銀行が除外されて、普通の銀行送金ができなくなったんです」とドクター・マルタンが。
「以前なら何の問題もなかった送金が、今では違法行為になってしまう可能性もある。暗号通貨も考えましたが...」
自由から責任へ
10年前の先生は、気の向くままにヨーロッパ各地を旅する自由な独身男性でした。
しかし、ニースでの一夏の恋が、彼の人生設計を根底から覆されていました。
国境を越えた恋愛、国際結婚、そして様々な理由により物理的に離れて暮らす家族。
これらは決して珍しいことではない現代の現実です。
国際家族法に詳しい弁護士にも相談し、将来的にフランスに家族を呼び寄せる可能性についても検討しているそうですが、結婚はできないと決めているということです。
まとめ
夏恋から始まった関係でした。 10年ぶりの歯科医院で偶然知った一つの家族の物語です。 打算とわかっていても、そこから生まれた命への純粋な愛情があるものです。
治療を終えて歯科医院を後にする時、ドクター・マルタンは笑顔で見送ってくれました。